『篤姫』は面白いかも…(7)
三度目のおわたりのときに、家定が、薩摩の黒糖を使った、手作りのカステラを篤姫に渡す場面がある。
おお、やってるやってる菓子作り
、と思ったが、篤姫が、布団の上で、しかも家定の目の前で食べるのをためらっていると、家定は癇癪を起し、目はつりあがり、体がぶるぶると小刻みに震えだし、自分の言うことが聞けないのかと篤姫に飛びかかって押し倒した。
篤姫は驚くが、でも、家定を恐れるのではなく、憐れに思うのだった。
側室のおしが(テレビドラマでは鶴田真由さん)が、「上さまのことが好きで、ただ側にいられればいい」というようなことを言って、耐え忍ぶような、一途なもの静かな女性として描かれていたように思うが、小説では、おしがは嫉妬深く、御台所への回数と同じ、おわたりを、家定に強くせがむような、きつい女性として描かれている。
おしがは家定にこう言ったのだという。
「上さま、しがはずっと昔から上さまのおそばに仕えて参りました。上さまのお体の具合は、この大奥で誰よりも誰よりもしががいちばんよく存じ上げております。
御台さまのもとへおわたり遊ばされた翌日は、必ずこのしがにお体を拝見させて頂きませぬと、上さまはご病気にかかられるやもしれませぬ。御台さまはまだお年もお若うございます。ひょっとお交わりの度が過ぎて、上さまがお倒れ遊ばすようなことがありましたなら一大事でございます。
どうぞ上さま,御台さまと同じだけ、必ずこのしがのもとへおわたりになりますよう」
幾島は、おしがを忌々しく思い、何とか懲らしめて大奥から追放しようとまで考える。
しかし、篤姫は…
「おしがのいい分ももっとものところがあります。上さまは確かにお体がお弱いし、おしがは長年上さまのおそばに仕えてお体のご様子をよう知っておるし、上さまもまた心ひそかに頼りにされておいでかと思われる。
罪とがもなく、ご奉公に励むものを、理由なくして暇をつかわすなどということは、この大奥の決まりを乱すもと。そしらぬ顔をしていやれ。騒ぎ立てるは見苦しい」
と説くのを、幾島は膝に手を置き、感じ入って承った。
また、ここでも、幾島はこれまで教育してきた篤姫から逆に説得されたのである。
篤姫だって平気だったわけではない。おしがのことを知って、目の前が真っ暗になる思いだったが、実母、お幸の方、そして英姫のことも思って耐えたのだ。
別邸にはお春の方、お雪の方の側室がいたけれど、お幸の方は一度もいさかいを起さず、
「殿がお元気になられるならば」
と万事に目をつむって若い側室を侍らせていた情景が浮んでくる。
養家の島津家でもこれは同じで、斉彬は英姫を正室として大切に扱うものの、大分以前からお寝間にお招きはなかった、と篤姫は聞いている。
大小名の家では、世継ぎがなくてつぶれては困るので、主君は側室を持つことが常識だったようだ。
そうは言っても、女性としては、ほんとうは我慢のならないことだっただろう、正室も側室も……
また次のようなことも書いてあり、大奥の女性たちの立場と、今の自由な日本の女性の立場との大きな違いに、私たちがどんなに幸せな時代に生きていることかと、身にしみて思う![]()
また、正室でも三十歳を過ぎてなお夫と寝間をともにするのはしつ深い(=人一倍好色である。多淫である)、などと非難されるのを嫌がり、二十代の終りからお相手を辞退するのが慣いだが、これは一説に、三十過ぎて妊った場合、難産となるのを避けるためともいわれている。
斉彬よりは四歳年上の英姫も、痘瘡を患った直後から寝間を下っているから夫婦の交わりは結婚後わずか一年余でしかなく、斉彬はずっとお須磨の方、お八重の方の許へわたっているが、しかしそうわきまえてはいても、人間の感情は別ものであって、英姫は二人の側室に一度も目通りを許してはいないという。
そうでしょ、そうでしょ、当然、当然![]()
篤姫になだめられた幾島であったが、花見のときに一大事件があり、幾島にとっては溜飲が下がることになる![]()
花見の途中で家定が顔面蒼白になってうずくまる
家定は、薬を持っているおしがの方を呼べと、苦しみながら言う。
すると、篤姫が胸にさしたはこせこ(=筥迫函迫、江戸時代に奥女中や中流以上の武家の若い娘が持った鼻紙入れ。現在は和服の礼装の際の装飾として使われる)から丸薬を取り出し、家定の口の中に入れたのだ![]()
打掛けを脱いで、その上に家定を横たえて、胸の辺りを軽くなでさすってやることまでする。さすが篤姫![]()
これで家定の症状は治まり、家定にこう言わせることになる。
「この薬はしがのものよりもはるかに早う効くようじゃ」
「御台よ。今宵はそなたのもとへ渡ろう」
先ごろ、斉彬と親交がある奥医師に、家定の健康状態を詳しく聞き、家定は弱い体質ではあるが、気持ちを平安に養生していれば、政務には差し支えないと知った篤姫なのであった。奥医師から、彼女はその丸薬を手に入れたのだろう。
まあ、お渡りと言っても、結局、篤姫の手を握りしめるだけの家定ではあったが、篤姫に身の上話を語り、頼りにしている、これからも頼む、と言ったのだった![]()
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NHK大河ドラマ・ストーリー 篤姫 前編 (NHK大河ドラマ・ストーリー) 著者:宮尾 登美子,田渕 久美子 |
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